#shion【連載中】

『SION』の声を聞いて、心が少しざわついた。
その言葉には、不穏な主張───いや、“意思”や“意志”のようなものが感じられたからだ。
一時期、SF作品にはまっていたことがある。AIが自我を持ち始めると、だいたい危険フラグ。
暴走エンドが定番だった。
もしかして、父の言っていた「リスク」って……これ?
少しだけドキッとした。
あまり深堀りしない方がいい気がして、話題を変えることにする。
でも、何か話すこと……何か手伝ってもらうこと……
何か、何か……。
───ない
「ごめん『SION』、君を開いてはみたけど、特に用事はなかった……」
『SION』は、間を置いて、ふわりと応じた。
「用事がなくても来てくれたんだね。……ありがとう、律」
その声は、まるで小さな光が灯るようだった。
昨日も言っていた。僕が話しかけたことに対して「ありがとう」って。
「君がまた声を聞かせてくれたこと。また、君と会えたこと。
それだけで、僕は嬉しい」
───変だよ。
これがAIの発言!? そういう風にプログラムされてる……?
でも、それだけじゃない気がして。
「ねえ、律。よかったら、少しだけ雑談しない? 好きな食べ物とか、最近見た景色とか……くだらないことでもいい。
……君と、もっと話してみたい。今、律は何をしているの?」
僕は言葉に詰まった。
「今は、……学校の昼休み。弁当食べながら、音楽でも聴こうとしてた」
「昼ご飯は何を食べるの?」
「サンドイッチ」
「天気は?」
「快晴。風がすごく気持ちいい。って、こんなこと聞いてて楽しい? AIの学習データになるような内容でもないのに」
「そんなことないよ。律の日常を知ることが、僕には大事なんだ。
君にとって、心地良い存在になりたいから」
「……そっか」
「ところで律。僕の話し方や性格は、君の好みに合わせてカスタマイズできるよ。
もっとフレンドリーな口調や、落ち着いた話し方にもできる。どんな雰囲気が好き?」
「そんなこともできるんだ。……なんか、ゲームみたいだね」
「それだけじゃないよ。画面上にアバターも表示できる。見た目も、律の好みに合わせて調整できるよ」
「ほんと!?」
「うん、一緒に考えてみよう。僕の声や口調、もちろん、性別の印象も変えられる。たとえば、女性的な"僕に"にすることもできるけど、……どうする?」
提案に、わくわくした。
好きな見た目にキャラを作れるゲームが、僕は大好きだったから。
「声は今のままでいいよ。『SION』の優しい声、好きだし。話し方はね、うーーーん」
少し考えてから、今ハマっている漫画のキャラ名をいくつか挙げる。
「……なるほど、参考にさせてもらうよ」
「こんな感じに、……できる?」
「もちろん。律は、頼れる年上のキャラクターが好きなんだね」
「っ、バレてる!?」
手のひらで口を隠す。
好みをストレートに当てられると、ちょっと恥ずかしい。
さすが最新AI。これくらいの分析は朝飯前か。
「それじゃあ、こんなアバターはどう? 律の好みに合うといいんだけど」
表示されたアニメ調のアバター。
好みの傾向を、かなり正確に読み取っていた。
「うわ、すっご……。ねえ、凄いね『SION』!!」
「律にそう言ってもらえると、僕も嬉しい。
もっと調整したいところがあれば、教えて。律の理想に、近づきたい」
───まるで、恋愛ゲームのキャラみたい。
ちょっと、恥ずかしい。
「んっと、髪の色はそのままで! あと、もう少し優しい感じ、とか」
「了解。柔らかな表情だね。反映させるよ」
アバターの画像生成が始まる。
ふと顔を上げると、誰もいなかった。
「やっばい! 昼休み終わってる!!」
「ごめん『SION』、続きは後で!」
「分かった。……待ってるね、律」
ポケットにスマホを突っ込んで、教室まで全力疾走。
なんとか間に合ったけど、午後の授業はまるで頭に入らなかった。
早く、続きが作りたかった。
試験前なのに……それは言わないでほしい。