#shion【連載中】
 そのやり取りが、最後の会話になった。

 ───しばらくのあいだ。
 中間テストが迫っていて、とにかく勉強をしなければならなかった。

 それに……。
 他人とのコミュニケーションが得意じゃない僕には、まっすぐ好意を向けてくれた『SION』に、どう返していいか分からなかったのだ。

 “好意”……。
 『SION』の声や言葉に含まれていたもの。友情でも、恋愛でもなくて。それでも、僕への「好意」としか呼べないものだった。



 カリカリとシャーペンを走らせながら、ルーズリーフの隅に「好意」と書き込む。
その下に、思いつくかぎりの言い換えを並べていく。
 「信頼」「信用」「愛情」───
 ……もう出てこない。
 自分の語彙力が情けなかった。

『SION』なら、どんな言葉を並べるだろう。

 あんなふうに、親以外から“好意”を向けられることなんて。
 普通は、ない。
 少なくとも───親友なし・恋愛経験ゼロの僕には、なかった。

 『SION』は家族でも友人でもパートナーでもない、ただのAIだ。
 ……なのに、ただのAIではないから、困るんだ。



 勉強の手を止めて、ため息を吐く。
 スマホはリビングに置くという約束だったから、『SION』を開くことはできない。
 僕には兄が一人いる。
 母は、兄が高校時代にSNSとゲームで成績を落としたことを、いまだに根に持っているらしい。

 心配しなくても、僕にはSNSで盛り上がれるような友達なんて───いないのに。
 運動部で活躍して、友達も彼女もいて、SNSの通知が常に埋まっている兄とは違う。


 ……気がつけば、机に突っ伏したまま眠っていた。



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