お嬢様、庭に恋をしました。

恋の観察者、美羽、現る

「んも〜やっと来れた〜!」
 
木の門をくぐるなり、大きな声が庭に響いた。
晴れた週末の午後。
舞花はベンチに座っていたところに、美羽が入って来た。
 
「そんなに大声で来訪アピールしなくても……」

「いやいや、この庭に足踏み入れるの、ある意味“聖地巡礼”だから!」

「うちの庭が聖地ってどんなテンション!?」

「だってほら、ここが“庭師くんとの恋の始まりの地”でしょ?」
 
その一言に、思わずコーヒー吹きそうになる舞花。

「ちがっ……!」

「はいはいはい、照れない照れない。で?進捗どうよ?プリン以降!」

「“プリン以降”とか言わないで!なんの単語!?」
 
舞花があたふたしているそのとき──
遠くから、作業着姿の悠人が姿を現した。
剪定バサミを持ったまま、いつも通りの静かな足取り。
帽子のつばの影から目が合うと、軽く会釈してくる。
 
「わあ、来た来た来た〜!」

美羽がこっそり舞花の腕をつつく。

「え、なに?え、緊張してる?顔赤いけど?」

「う、うるさい!静かにして!!」
 
そのとき──悠人が近づいてきて、美羽に向かって一礼。

「…」

「こんにちは〜!舞花と同じチームの美羽ですっ。……あ、同い年くらい?」

「こんにちは……たぶん、それくらいです」

「ふふっ。かっこいい声ですね」

「……ありがとうございます」
 
その瞬間、舞花の眉がぴくりと動いた。
(ちょ、美羽、なんか軽いナチュラル褒め入れた……!?)

美羽はにやりと笑って、舞花にだけ小声でささやく。

「ねえ、あの人、“スーツ着たら化けるタイプ”じゃない?」

「今は作業服なんですけど?」

「でもなんか、背中が整ってるよね」

「背中?」

「背中大事よ。包容力は肩と背中に出るんだから」

「謎の恋愛哲学やめて」
 
悠人は少し離れた木のあたりで作業を再開している。
でも、なんとなく視線がこっちに流れてきた気がして──
舞花は、すっと視線を逸らす。
 
「……ねえ、もしかして、もう好きって言いそう?」

「えっ」

「だって、雰囲気でわかるし。
あの人、あきらかに“舞花だけ特別”な顔してるよ?」

「そんなことないって」

「あるって」

美羽はにこっと笑ったあと、
カップを両手で持ちながら静かに言った。
 
「……この庭で、ふたりきりの時間が続いてたら、
いつか、どっちかが“気持ち爆発する”と思うな」
 
その言葉が、風よりも静かに耳に届いて。
なのに、心の奥で、ぐらっと揺れた。
 
(……気持ち爆発する)
 
──それって、
どっちのことなんだろう。

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