日常の向こう側
「ふぅん・・・青年の時点でここまで派手に壊れられるとはのう。」
「何か言ったか?」
「いや。気にしないでおくれ。そうか暇潰し・・・そんなお主に朗報じゃ。」
老人は机の下から何やら怪しげな水晶玉を取り出す。
水晶玉は紫色の淫靡な色合いを放ち、心を奪われそうになった。
「この水晶の中に好きな金額を言ってから手を入れてごらん。好きなだけ出てくるから。」
そう言うと、老人はゆっくりと水晶の中に手を入れる。
水晶の表面は水面の様に揺れ妖怪のような腕を肘辺りまで飲み込んだ。
老人は顔に再び軽重浮薄な笑顔を浮かべている。
「ただし、金を手に入れるには条件がある。」
腕を引き抜き、水晶を机の隅に置く。
「お主の寿命一秒につき一円が手に入る。」
「人生を暇潰しとして考えてる俺にはぴったりってか?」
「そうじゃ。」
「いくらだよ。」
「金なぞいらん。」
ほっほっほと、作ったような笑い声を上げる。
俺はこの世でタダほど高いものはないと思っている。
「何が望みだよ・・・」
「何も。ほれ。」
水晶を投げ捨てる様に渡してくる老人。
落とさないように気をつけて受け取り手で軽くもて遊ぶ。
色合いこそ淫靡であるが・・・まぁ、普通の水晶であった。
試しに心の中で五千円と願いながら、腕を突っ込んでみる。
普通なら猜疑心に駆られ簡単に突っ込まないだろうがそこは人生を捨てた男。
行動に迷いは無かった。
ずぶずぶと、泥に手を入れたような感覚を覚える・・・
と、途端に何やら手にひらりと何かが落ちる感覚を覚えた。
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