日常の向こう側
時計を見ると、デジタル数字が朝の十時半を表示していた。
「何でもないよ、光香。」
燃え粕の様な人生を送る俺にも恋人は居た。
名前は光香。カーテンから差し込んでくる光が光香の髪の毛を金色に輝かせる。
肌が白いせいか全体として薄幸の様相であるが、性格は外見を皮肉るかのように正反対である。
だからこそ、俺は次の光香の一言に返す言葉が見当たらなかった。
「ねぇ、結婚しよう。」
「・・・」
ドライな光香の事だ。こんな言葉、あと十年は無いだろうと踏んでいたのだ。
俺は無言でベッドから体を起こし、無造作に髪を掻き散らした。
「その仕草、セクシーだね。」
きっとこいつは、返答しない事から俺が結婚について何にも考えてない事を察し・・・
そして、誤魔化すかのように話題を反らそうとしたのだろう。
光香の気遣いがきつく俺の心を締め上げた。まるで棘で締め上げられているかのように心が痛む。

「・・・しよう。」
「え?」
「結婚しよう。」
そう言い、光香を見ると目に溢れそうな涙を浮かべていた。
いくら鈍感で人間として終わっている俺でも・・・光香が感極まって涙を流しているのは分かる。
緩慢な動作で抱き寄せ、柔らかく口づけをした。
「ほん・・・とに・・・?」
「あぁ。俺がお前を幸せにしてやる。」
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