ゆびさきから恋をする
「はい、これやり直し」

 パシッと書類で頭をはたかれた。先日出した改善提案が何点か赤ペン先生されて返される。

「ええ? こんな大げさに言ったら変じゃないですか? 私はテプラに表記して張り付けたってだけですよ?」

「それによって全員が周知出来て環境にもよくなった、なにも嘘は書いてない。だから査定評価を上げるためにもっと焦点を絞って書けって言ってるだろ? 書き方が甘い」

「……はい」

 残業が増えたおかげで実験室で二人になれることも多くて本音は嬉しかったりもする。他愛もない話ももちろんするけれど仕事の話や仕事に関連した話が出来るのが楽しくてうれしい。今みたいにぽろっと本音なんかもこぼしてくれるから、あぁ親しくなれたんだな、と実感していた。

 しかし実際のところ、私たちの関係が上司と部下からどうなったのか未だに不明であるのは事実で。


(結局なんなんだろう、今の関係って。上司部下はそうだけど、仕事の話が基本。なに、これ)


 パソコンを打ちながらフトそんなことを考えていた。


 あの日気持ちを吐露して抱きしめられてから数日、久世さんの連絡先さえ知らず、この関係のハッキリしたことも何も聞けずにいる。

 やっぱり夢だったのか、都合のいい妄想をしていた? 考えるほど沼にハマってパンクしそうになる。


(だめだ、余計な事考えると仕事にならない!)


 気持ちを切り替えようと、椅子の背に体を預けて身体を伸ばしたその時だった。

「ん!」

 顎がクイッとさらに後ろに伸ばされていきなりキスされた。
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