ゆびさきから恋をする
 軽く触れるだけのキスだったけど見下ろしてくる久世さんと目が合って余計に固まった。

「もう事務所戻るけど、ほどほどにして帰れよ」

 そう言って立ち去ろうとする久世さんの制服を思わず引っ張った。

「あのぉ!」

「……なに?」

「……あ、の」

 続かない言葉の代わりに制服の裾をさらにぐいっと引っ張る。勢いで呼び止めたけど言いたいことは何もまとめられていない。

「……その」

 言いよどむ私の気持ちを察したのか行きかけた足を戻して目の前のキャスター付きの椅子に座ったらグイッと近づいてきた。

「なに?」

 距離が近い。
 近づかれると逃げたくなるのはイケメンに慣れていないせいか、腰を引くと笑われた。

「なんで逃げんの」

「――あんまり、定時後に近づかないでください」

「なんで?」

(いろいろ崩れてるからだよ! 顔が!)

 そんな本音は当然言えるわけがない。

「そそ、それより!」

「はい」

「その、聞きたいことが、ありまして」

「なに?」

「聞きたいっていうか、確認っていうか……その」

 黙って私の言葉を待つ久世さん。

(だめだ、顔面偏差値が高すぎる!)
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