ゆびさきから恋をする
 距離が近すぎる、どうしよう。

 見つめられるから見つめ返す。視線を反らせなくてただ固まっているだけの私の頬を久世さんのゆびさきがそっと触れて親指の腹部分がくちびるをふにっと押さえてくる。

「……っ」

 触れられたことに素直に反応してさらに真っ赤に違いない。頬が顔が熱すぎる。もはや微動だにしなくなった私をフッと笑って見つめながら久世さんが言った。

「そんな顔されるとキスで終われないからやめてくれる?」

「……」

「もう暗いから気をつけて帰れよ? 家着いたら連絡いれといて……聞いてる?」

「――あ、は、はい」

 なんとか返事を返したら久世さんがフッと笑って……。

 ――ちゅっ。

「!」

「おつかれ」

 押し付けるような軽いキスだったけど、真正面から見つめ合ってのキス。久世さんはスッと席を立ってそのまま実験室を出て扉が閉じられたら室内が静寂に包まれる。

 瞬間――止まっていた息を盛大に吐き出した。


(なにあれなにあれなにあれ!)


 悩んでたのがバカみたいなくらいゲロ甘な久世さんに瞬殺されてしまった。


(ど……どえらい人を好きになってしまったかもしれない……)


 恋愛下手な私にはかなりハードルの高そうな恋、それがまさにこれから始まろうとしていた。





< 113 / 121 >

この作品をシェア

pagetop