ゆびさきから恋をする
 パンッ、とキーボードをたたく音にハッとした。

「測定終わってる」

 骨ばった長い指がパソコンのキーボードから離れてその指先を見送ると久世さんがいた。

 ぼんやりしてしまっていた。ただそれだけの私を心配そうに見下ろしてくる。

「どした? なんか体調悪い?」

「……いえ、ちょっと……ボーっとしてました、すみません」

「……なんか顔色悪いけど」

 大丈夫? 覗き込まれて腰を引いた。

「平気です」

 イケメンに見られるのは慣れていない。しかもただのイケメンじゃない。意識すると終わる、その思いだけで顔を背けた。

「……これ、承認下りた」

 渡されたのは先日言われて提出した改善提案書。

 中を見ると私が書いたより明らかに長い文章、しかも細かく大げさに書き換えられているから突っ込まずにはいられない。

「あの、私が書いたものと明らかに変わってる気がします」

「今回は特別。それ見て書き方勉強するように」

「なんかとんでもなく大げさになってません?こんな大層に書くことじゃない気がするんですけど」

「書き方で査定評価変わるんだから同じもらうなら高い評価つけさせるの当然だろ。小遣い稼ぎだよ、がんばって」

 ”がんばって”それは今の私には辛い言葉だ。

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