ゆびさきから恋をする
 やるせない。
 あんなに真摯に仕事に向き合ってる人間の努力を正当に評価してやれないことが悔しい。責任から逃げたくて適当に仕事してるやつなんか五万といるのに、なぜなんだろう。


 ――色々思う日があったって……また頑張ろうってなるじゃないですか。


 あの日……二人並んでコーヒーを飲んだ休日の昼下がり。

 あの日の言葉が脳裏によみがえって胸が詰まった。きっと、俺の知らないところで今までもずっと胸に抱えて悩んで飲み込んでいるんだろう。それでも健気に仕事に向き合って自分を高めようとしている。

 捌いている試験件数、その精度の高さと正確さに今このグループで彼女を超える人間はいない。社員がしている雑務を任したところで彼女が件数を下げることもないだろう、きっと雑務も今より良いようにまとめるかもしれない。

 キャパの問題だ、仕事は立場や縛りでするんじゃない、人がする。誰がどんな風に仕事をこなすか、それで仕事はいろんな形に変わるんだ。

 俺はそれをわかっているのに、彼女のやってきた仕事をなかったことにしなければならない。


(守ってやれない)


 今の俺には彼女を守れる力も術もない。だから余計に彼女に向き合えなくなっていた。
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