ああ、今日も君が好き。
引越し先が都とは限らない
金牛から電車に乗ること約30分。そこから歩くこと約10分。
俺は今、必要最低限の荷物が入ったリュックと四人分のケーキを片手に見吉さんの家の前に立っていた。
見吉さんの自宅は俺の想像していた通りの綺麗な家だった。
黒色の門扉の先にある綺麗な白色の外壁に、少し奥まった緑のある庭。
金持ちが住むような仰々しい豪邸ではないが、少しこじんまりとした金持ちの家って感じだ。
「ここに、俺が…」
………うん。
俺、場違いじゃね?
こじんまりとした金持ちの家とは言ったが、それでもやっぱり金持ちの家なのだ。
富裕層向けの家であることには変わらない。
そんなところに田舎から出て来てまだ一年しか経ってないパンピーが安易に踏み込んでいいのだろうか。
今更だが、気後れする。
……いや、いくら彼女の方から話を持ち掛けてくれたとは言え、彼女の好意に飛び付いたのは俺だ。
今更引き返すことなんて出来ない。ドタキャンなんて失礼過ぎる。
でも身体は正直でインターホンを押そうとする指がプルプルと震えていた。
ヘタレか俺は!?
……いや、うん、ヘタレだけどさ!
偶にはビシッと男見せろよ俺!柴田健!
「………よしっ」
恐る恐ると、インターホンに手を伸ばしたその時。
ピーンポーン
………ん?
ピンポン?
あれ、俺インターホン押してないんだけど。