ああ、今日も君が好き。
それにしても…。
(見吉さん、今日も可愛いかったな…)
安定の可愛さに、無意識に顔がニヤける。
でも大学で見る彼女とは違い、今日の彼女は何だか表情が豊かで幼い印象を受けた。少し大きめのルームウェアにショートパンツの組み合わせがそう思わせているのか、いつもの大人びた雰囲気はどこにもなかった。
これが素の彼女なのかもしれない。
そう思うと無性に嬉しくなってテンションが上がった。
そんな彼女を知ってるのが俺だけだと思うと、感じたことのない高揚感に胸が躍る。(←一瞬見ただけのくせに)
先程までの憂鬱な気持ちが嘘のように心が軽くなる。
田舎者でも、相手が金持ちでも関係ない。
俺と見吉さんは友達なんだから身分の差に臆することはないし、見吉さんのような女神が田舎者だからと言って差別するはずがないじゃないか。
きっと見吉さんのご家族だって良い人に決まってる。いや、絶対に良い人だ。
見吉さんと同じ血が流れている人に悪い人なんているはずがない。
ふぅ…、と深呼吸して気合を入れ直す。
そして再びインターホンに手を伸ばした、その瞬間。
トントン、と誰かに肩を叩かれた。
「君、そこで何をしてるのかな?」
………Why?
え、何で警察?
俺呼んでないんだけど。
「君だね、見吉さん宅の前にいる変質者って言うのは。見吉さん宅に何の用かな?」
へん、しつしゃ…
ヘンシツシャ…
変質者!?
それってよく川沿いに出没する下半身露出男とか、好きな女の子の後を付けて家割り出したりするストーカー野郎みたいなあの変質者のこと!?
いやいや、俺下半身露出してないしストーカーもしてませんから!
「ち、違います!俺は変質者じゃありませんっ!」
「他人の家の前を彷徨く怪しい人を変質者と呼ぶんだよ。正に今の君だよね」
………うん、確かにね!
そりゃそうかもしれないけどさ!
「俺、別に怪しい人間じゃありませんから!見吉さんとは大学の友達で、今日は見吉さんに会いに来ただけで…っ」
「詳しい話は署で聞こうか」
「いや、展開が急!俺何も悪いことしてないんだけど!マジで!」
「必死なところが益々怪しい…」
「そりゃなるでしょ必死にも!こっちは今露出狂のストーカーになるかどうかの瀬戸際なんだから!」
「(そこまでは言ってないが…)兎に角、埒が空かないから一旦連行するよ」
「だから本当に俺は…っ」
ヤバいヤバい。マジでヤバい。
これから見吉さんの家でお世話になるって言うのに警察沙汰とかヤバ過ぎる。
しかも本人の家の目の前で騒ぎを起こすとかマジで笑えない。
身分不相応で悩んでる前に、折角見吉さんと友達になれたのに嫌われてしまう。
最悪居候の話はなくなってもいい。
でも友達ポジションだけは…、見吉さんに嫌われることだけは何としても避けたかった。
ふと、俺と警察官のやり取りを遠目から見る複数の目に気付いた。
……マズいな。
このままだと近所の人に何噂されるか分からないし、見吉さん達にも迷惑が掛かってしまう。
決して不審者ではないが、ここで騒ぎを起こして粘るより警察署に行った方がいいかもしれない。
俺はこの場で自分の潔白を晴らすことを諦めて渋々警察署に向かおうとした、その時。
「どうかされましたか?」
この声、振り返らなくても分かる。
でも何かに引き寄せられるかのように思わず振り返ってしまった。
彼女には迷惑掛けたくなかった。
彼女だけには、嫌われたくなかったのに。
「み、よし……さん…」
「中々来ないから心配したよ、柴田くん」
ふわり、と。
彼女は綺麗に微笑んだ。