ああ、今日も君が好き。
「お、お邪魔します…」
緊張気味な声を出しながら靴を脱いだ俺に、彼女は「さあ、どうぞ入って」と言って可愛らしい黒猫のスリッパを出してくれた。
「うちは全部フローリングだからスリッパを使ってね。はい、これが柴田くん専用のスリッパだよ。しま○らで見つけて即買いしちゃった、可愛いでしょう」
可愛い。
確かに可愛い。
でも一言言わせてもらうなら…。
「見てみて、私もお揃いで買っちゃった」
(貴女の方が断然可愛いですからっ!!)
何その笑顔、可愛過ぎるんだけど!!
お揃いにしちゃったとか、俺を悶え殺す気ですか!?
しかし、ここで一つ問題がある。
俺とは対称的な白猫のスリッパを履く彼女は俺にスリッパを見せるために足を前に出すものだが、正直目のやり場に困っていた。
何故なら可愛らしいスリッパよりもショートパンツから覗くスラッとした生足の方が破壊力抜群だからだ。
「に、似合ってるね…」
そう言うのが精一杯。
ヤバい。
鼻血出たらどうしよう。
「じゃあ大まかに家の中を案内するね」
「あ、その前にこれ…」
「ん?」
「口に合うか分からないけど、良かったら食べて」
そう言って彼女の前にケーキの入った箱を差し出した。
「これ…、もしかしてケーキ?しかも“Lucky Dog”の?」
「うん。よく店分かったね」
「私ここのケーキ大好きで弟がよく買って来てくれるの!嬉しい…っ、ありがとう柴田くん!」
「よ、喜んでもらえて良かった…」
GJサーヤ。
よくぞあの店を俺に教えてくれた。
サーヤの言う通り好感度爆上がりじゃないか。
「それじゃあまずはケーキを冷蔵庫に入れなきゃだね」
そう言って彼女に案内されたのは白を基調としたリビングだった。
それもかなり広く、リビングだけでホームパーティーが出来そうなレベルだ。
見吉さんは俺が持って来たケーキをこれまた大きな冷蔵庫に入れると、一階から順に家の中を案内してくれた。
一階にはキッチン、リビング、風呂、トイレ、そしてご両親の寝室があり、二階には子供部屋が三室と客室用の部屋が一室ある。
今回、俺は二階の客室を貸してもらえるらしい。
客室は既にシングルベッドが用意されており、フローリングの床には緑色のラグマットが敷かれていた。
第一印象は綺麗に整頓された部屋だと思った。
でも普段使ってない部屋なのに埃っぽさを感じないのはきっと見吉さんが掃除してくれたからに違いない。
こんな綺麗な部屋を用意してもらって、その上掃除までさせてしまったと思うと申し訳ない。
「柴田くんはこの部屋を使ってね。ベッドシーツと枕カバーは新品だから安心して」
「新品?態々買い替えてくれたの?」
「前に使ってたものがボロボロだったから」
しかもスリッパだけじゃなくシーツまで買わせてしまった。
ああ、本当に申し訳ない。
「柴田くんの荷物はそれだけ?」
「うん。流石に電化製品は持って来れないからレンタル倉庫に預けたよ」
「衣類しか持って来てないってこと?それにしても少ないね」
「必要最低限のものしか買わないから」
「………」
まあ、正確に言えば買わないんじゃなくて買えないんだけど。
「だったら必要なものがあれば教えて。基本的なものはうちに揃ってるから大丈夫だと思うけど日用品なんかはすぐ消費しちゃうかもしれないし。それとうちにあるものは全て使ってもらっていいからね、一々許可取る必要もないよ」
「え、でもそれは…」
「前にも言ったけど、今この家には私達姉弟しかいないの。だから柴田くんの好きなように生活して。誰に萎縮する必要もないし、自分の家じゃないからって遠慮することもないよ。使えるものはジャンジャン使って」
「じゃ、じゃあ、せめて家賃を払わせてよ。そしたら少しでも見吉さんの負担にはならないと思うし、俺も見吉さんに迷惑掛けてまで居座りたいわけじゃないから…」
「うん、じゃあその話はまた追々ね。まずは荷解きしなきゃ柴田くんも落ち着かないでしょう」
「あ、そっか」
「それに今回のことを持ち掛けたのは私だよ。負担とか迷惑とか、そんなこと思ってたら初めから誘ってないよ。だからね、柴田くんも私に気を遣うことないんだよ」
「見吉さん…」
……ああ、女神。マジで女神。リアル女神。
こんな見た目も性格も最高な人っている?
いや、目の前にいるけどさ。
きゅんを通り越してズッキュンだよもう。
「ベッドの下を開けると収納スペースになってるから衣類とかはそこに仕舞ってね。シワになっちゃうものはそこのクローゼットを使って」
「ありがとう」
「じゃあ私はリビングにいるから柴田くんも片付けが終わったらリビングに来てね。多分その頃には弟も帰って来てると思うから紹介するね」
「分かった。すぐ終わらせるから下で待ってて」
「ゆっくりでいいよ」
そう言って彼女は部屋を出て行った。