黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 とにかく何か話しかけなきゃ。でも何を……。

 長テーブルの端にいる陛下を、ちらりと横目に見る。
 節のある長い指でフォークとナイフを持ち、少しも崩れることのない姿勢で食事を口に運んでいる姿は、つい見惚れてしまうほど美しい。

 軍神だ鬼神だと、まるで粗暴な人物のようにうわさされているけれど、こうして本人を前にしてみると、そんなものは当てにならないと思わざるを得ない。彼は間違いなく生粋の皇族だ。

 着ているのはシンプルな白シャツと黒いトラウザーズのみで、結婚式のときのように金糸銀糸の刺繍や宝石をあしらった豪華な衣装ではない。けれど余計な飾りを取り払った分、彼のスタイルのよさや顔立ちの端正さを際立たせている。

「なんだ」
「ほぁっ!」

 びくっと肩が跳ねた。

「も、申し訳ございません」

 不敬なほどじろじろ見ていた上に、変な声まで出てしまった。どうして陛下の前だとこうも失敗ばかりしてしまうのだろう。これでも結婚前は、聖女の鑑だと褒められることもあったのに。

「何か言いたいことがあったのではないのか?」
「いえ、なんでも――」

『ありません』と言いかけて、はたと気づく。せっかくのチャンスだ。無駄にしてはいけない。

 なんでもいいから話をつなげなきゃ! 

「今陛下が召し上がられたのは、なんのお野菜かしらと思いまして。初めて見ましたもので」

 おそらくチキンソテーの横に添えてある野菜だろう。鮮やかな緑色をしていて、表面に小さなおうとつがいくつもある。

「ああ、これか。ツルレイシだな」

 料理長が南国から美容と健康にいいと取り寄せたそうだ。

「それはすばらしいですね」

 さっそくツルレイシを口に運んだ。噛んだ瞬間、舌に強烈な苦味が走った。

「……っ!」

 急いでグラスをあおる。慌てていたせいでむせてしまった。

「どうした。口に合わなかったのか?」
「え、いえ、ゴホッ……そんなことは、ゴホゴホッ」

 咳込みながらなのでうまく説明ができない。
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