黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 池向こうのガゼボが目に入った瞬間、私は思わず「え!」と声を上げた。

 なぜもういらっしゃるの⁉

 ガゼボの中にいるのは間違いなく陛下だ。仕事の書類か何かだろうか。手に持った紙に視線を落としている彼は、こちらにはまだ気付いていない。私はスカートを持つ手にぎゅっと力を込め、最大限の早歩きで向かった。

 近づくと私に気づいた陛下もカゼボを出てきた。

「お待たせして申し訳ございませんっ」

 最後は少し小走りになった。慌てていたせいでつま先が段差に引っかかる。

「きゃあっ」

 転ぶのを覚悟したけれど、そうなる前に陛下が支えてくれた。

「よく転ぶやつだな」
「申し訳ございません」

 ドドドドッと心臓が早鐘を打っている。陛下を待たせた上に、助けてもらってしまった。陛下の隣に立つにふさわしい后だと思ってもらいたいのに、名誉挽回どころか心証を悪くするようなことしかできていない。

 情けないわ……。

 しゅんとうなだれたら、黒革の手袋をした手が差し出された。
 私は動きをピタリと止め、陛下の手と顔を目で往復する。

 ここに私の手を乗せてもいいということ?

 散歩の誘いに同意してくれたということは、顔も見たくないほど嫌われてしまったわけではないのかもしれない。
 かすかな希望にすがりながらここまで来たところで、まさかのエスコートだ。公式行事ではないので、陛下自身の意思ということになる。

 恐る恐る手を持ち上げてみるも、乗せることに躊躇してしまう。
 もしかしたら私の勘違いかもしれない。「調子に乗るな」と冷たくあしらわれるかも……。

 大きな手を前にして微動だにできずにいると、不機嫌そうな声が聞こえた。

「いらないのか? なら――」

 陛下が手を引っ込めようとしたので慌てて飛びついた。

「そんなことはございません!」

 両手で握ったら、陛下が両目を見開いた。

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