黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「まるで女神様がいらっしゃる場所みたいです」

 聖女宮に飾られている女神様の絵や彫刻には、バラの意匠が多い。女神様が好む花とされるからだ。

「素敵なところに連れてきてくださってありがとうございます、陛下」
「いや……気に入ったならいい」

 隣を見上げながら言うと、陛下の口角がわずかに持ち上がるのが見えた。

 陛下が笑ったわ!

 やっと落ち着いた頬が再び熱を持ち始める。静かな微笑みにぼうっとくぎづけになっていると、視線に気づいた陛下がこちらを向いた。

「どうかしたのか?」
「え、あの……」

 笑顔に見惚れていましたとは言えず、どうにか別の話題をひねり出す。

「もしよろしければ後で一輪いただいてもよろしいですか?」

 急ごしらえにしては我ながらいい案だ。陛下との初散歩の記念にしたい。部屋に飾っておけば、この素敵な時間を思い出してつらいことがあってもがんばれそうだ。

「一輪と言わず好きなときに好きなだけ摘んだらいい」
「え! いいのですか?」

 だめと言われるのは覚悟の上だったので、予想外のふたつ返事に目をしばたたいた。

「いいも悪いも、この庭を含めた宮殿のすべては皇后であるおまえのものでもある」
「私のもの……」
「そうだ」

 皇后になるということがどういうことかわかっていたつもりだけど、改めて陛下の口から聞かされると、恐れ多さにめまいが起きそうになる。

 他の人より神聖力が強いというだけで、孤児出の自分が皇帝の妻になるなんて思いも寄らなかった。

 陛下の腕から手を離し、バラの生垣へ近づく。指先でそっと花びらを撫でる。

 帝国には、このバラのように手塩にかけて大切に育てられた高貴な女性達が大勢いる。彼女達ならいざ知らず、雑草のような私が花園の頂点に立つなんてあっていいのだろうか。聖女の中には貴族出身の人もいるのだ。

「本当に私でよかったのでしょうか」

 気づいたらそう口にしていた。

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