黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 その頃はちょうど、陛下は遠い敵国で戦っていたはずだ。彼がいたからこそ長く続く戦争に終止符を打てたのに、呪いをかけたと言われるだなんてひどすぎる。

「私は根も葉もないうわさ話を信じたりはしません」

 孤児の私は教皇の養女となったことが原因で、他の聖女達から妬みや逆恨みを買ったことがある。あからさまな無視やありもしないうわさ話を流されて、一時期誰を信じたらいいのかわからなくなった。

 けれど、自分の目で見たもの以外はうのみにしないと決めてからは味方も増えて、聖女としての行いに迷いもなくなった。

「たしかに神託ゆえの結婚ですが、私は私の意思で陛下の妻になることを決めました。それを後悔したことはございません」
「そうか」
「はい」

 力を込めてうなずくと、形のよい二重まぶたが柔らかく細められた。

 胸がキュンと高鳴った。無表情からの微笑みは破壊力抜群だ。

「オディリアと呼んでも?」
「も、もちろんです、陛下」

 いきなりの名前呼びにどぎまぎしてしまう。

「俺のことは名前では呼んでくれないのか?」
「へ、陛下をお名前で⁉ 恐れ多いことでございます」
「遠慮はいらない」

 そうは言われましても!

 きちんと会話をするのは二度目なのに、いきなり陛下を名前で呼ぶなんてできるはずがない。
 心臓が早鐘を打って、額に変な汗がにじみ出す。

「オディリア?」

 視線を合わせるように顔をのぞき込まれて、ビクッと背中が揺れた。反射的に顔を背けてしまった。

 しまった! これじゃあまた、陛下のことを嫌っているかのように見えてしまうじゃない!

 なんて言い訳をしたらいいのかわからず焦っていたら、鮮やかなピンクのバラが目についた。

「まあ! なんてきれいなバラ! さっそくですがこちらのバラをいただいてもよろしいですか⁉」

 声が若干裏返ったがそんなことを気にしている場合ではない。返事を聞くより早くバラに手を伸ばす。

「待てオディリア」
「痛っ」

 制止の声と同時に指にビリッと痛みが走り、思いきり手を引いた。人差し指を見ると血がにじんでいる。とげで引っ掻いたらしい。
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