黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 戦争中、国境付近に設けられた治療院では、医師や看護師だけでなく聖女たちも負傷した兵士たちの手当てに当たった。
 本来なら神聖力が最も強い私こそ、そこへ行くべきだった。けれど私は帝都から出ることを許されていなかった。皇族や貴族に何かあったときのために、すぐに駆けつけられるようにしておかないといけないからだ。

 私は国のために命をかけて戦っている兵士たちのために力を使いたい。そう何度も教皇様に訴えたけれどなかなか許可が下りず、なんのための力なのだと憤りを覚えたことは一度や二度ではない。

「おまえに聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」

 首をかしげたら、陛下がじっと見つめてくる。何かよくないことでも聞かれるのかとドキドキしていたとき、茂みからガサガサっと物音がした。
陛下がすばやく私の前に出る。大きな背中にかばわれながら生垣の根元を覗くと、灰色の毛をした動物がうずくまっていた。

「犬……?」
「いや、狼の子どもだろう」

 どうしてこんなところに狼が⁉
 山や森のそばにある宮殿ならいざ知らず、王宮は帝都のど真ん中にある。いくら森のようにだだっ広い庭園があるとはいえ、狼が紛れ込んでくるなんて驚きだ。

 子狼はうずくまったままグルグルと唸り声を上げてこちらを威嚇している。

「オディリア。下がっていろ」
「陛下⁉」

 剣を抜いた陛下に慌てた。狼といえどまだ子どもだ。殺してしまうなんてかわいそうだと思えてくる。

「子がいるということは近くに親がいるかもしれない。万が一群れで迎えに来たらこちらも無傷ではいられない」

 狼に襲われることを考えたら背筋がゾッとした。恐怖に駆られながらも、目の前の子狼にもう一度視線をやる。

「あっ!」

 子狼の後ろ足から血が流れていた。

「待ってください! この子、怪我をしています」

 もしかしたら熊や野犬などの動物に追われて親とはぐれたのかもしれない。怪我が治れば自力で群れに戻れるはずだ。
 陛下の背後から飛び出して子狼に近づく。

「おい!」

 陛下の慌てる声を背に、そっと子狼に近づいた。
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