黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 グルルル……と威嚇する声を上げるが、逃げることも向かってくることもしない。どうやら立ち上がれないようだ。

「大丈夫、大丈夫よ。怖がらないでじっとしていて。すぐに治してあげるから」

 生垣の根元に膝をつく。手のひらが温かくなって神聖力が集まるのを感じながら、子狼にそっと手を伸ばす。
 子狼はピクリと体を跳ねさせ一瞬牙をむき出しにしたが、段々と威嚇の声が小さくなっていく。そっと後ろ足に手のひらを当てたら、おとなしくなった。

「〝命の息吹に女神の祝福を〟」

 手のひらが一瞬熱くなり、それから徐々に熱が引いていく。完全に平熱に戻ったところで手をのけると、傷はふさがっていた。

「ほら、もう大丈夫」

 子狼は信じられないとでもいうかのように、怪我をしていた足に鼻を近づける。

「しばらくしたら傷跡もすっかりきれいになると思うけど、念のためにあまり無茶をしちゃだめよ」

 目を見ながら言い聞かせるように言うと、子狼はすっくと立ちあがり、バラの生垣の奥へと走り去っていった。

「もう迷い込んできちゃだめだからねー」

 子狼の消えたほうへ向かってそう声をかけてから、スカートの膝を払いつつ立ち上がる。

「お待たせいたしました」

 振り向いた瞬間、琥珀色の瞳と目が合った。何か驚いたようにこちらを凝視している。

「陛下……?」

 呼びかけると陛下はハッと我に返ったような顔になる。

「オディリア……今のは……」
「はい?」

 切羽詰まったような表情に、心拍数が急上昇する。

 もしかして子狼を逃がしたことを怒られてしまう⁉

 せっかく打ち解けられそうな雰囲気だったのに、今度こそ嫌われるかもと思ったら泣きたくなった。

「勝手なことをして申し訳ございません……」

 うつむいて謝ると、頭の上にポンと重みのある何かが乗った。ポンポンと軽く跳ねるように撫でられる。

 陛下の手が……!

 気づいた瞬間、カーっと顔が熱くなった。

「いや、オディリアに怪我がないならいい。ただ少し聞きたいことがあっただけだ」
「聞きたいこと……あ!」

 そういえばさっきそんなことを言われたのだった。子狼の登場ですっかり忘れていた。

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