黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 ああ……やってしまった。

 帝国の安寧のためにここにいるのに、自ら不和を生むようなことをするなんて、聖女失格だ。
 自分のことならどれだけ悪く言われても構わないけれど、教皇様を冒涜(ぼうとく)されて黙っていられなかった。

「オディリア様」

 後ろからエルマが恐る恐るといった感じで声をかけてきた。私が侯爵親子の去った方を見たまま動かないので、傷ついているとでも思ったのだろう。

 周囲の者に無用な心配をかけてはだめね。

 気持ちを立て直し、笑顔を作って振り返った。

「カリーナ嬢ってとてもお美しい方ね。さすが皇太子殿下の元婚約者だわ」

 エルマが軽く目を見張った後、言いづらそうに視線を伏せた。

「皇太子様があのようなことになり、ブルックリー侯爵はご令嬢を陛下の第二妃にとお考えなのかもしれません」
「えっ……そうなの?」
「ただのうわさ話です。そのうちお耳に届くと思ってお伝えしましたが、あまり気にされないほうがいいのではと」
「そうなのね……ありがとう」

 さっきの侯爵令嬢の視線は、もしかして宣戦布告?

『あなたに皇后は務まらない』

 そう言いたかったのかもしれない。

「あんなきれいな方に勝てる人なんていないわね」

 もし本当に彼女が第二妃になるのなら、妻としての私は不要だろう。今夜白い結婚を解消することができたとしても、お飾り皇后になるのは時間の問題かもしれない。

 だとしても、私はこの国の安寧のためにここにいる。神様に皇帝と大聖女が結ばれたと認識してもらえればそれでいい。
 いい……はずなのに……。

 なぜか胃の辺りがズンと重くなり、気づいたら眉根を寄せていた。

「オディリア様、お時間が」

 エルマの声にはっとする。

「そうね、戻りましょう」

 こんなところで立ち止まっている場合じゃなかったわ。

 私は自分の中に生まれたモヤモヤした感情を振りきるように、急いでその場を後にした。


< 28 / 114 >

この作品をシェア

pagetop