黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「はあぁぁ……」

 ひとりになった途端気が抜けて、大きな息を吐きながらソファーの背に寄り掛かる。

「いよいよなのね」

 琥珀色の瞳を思い出して胸が高鳴る。

 腕のたくましさや服越しに伝わる温もり。子狼が現れたとき私をかばうように立った大きな背中。

 バラ園を散策したときのことがよみがえり、隣にあったクッションに顔をうずめ、キャー!と叫びたい気持ちを必死にこらえた。

 落ち着くのよ、オディリア。今度こそきちんと役目を果たさないと。

 陛下は決して非情な人ではないとわかったけれど、かといって私のことを好きというわけでもない。前回のように不快にさせてしまったなら、もう二度とチャンスは訪れないだろう。

 そもそもこんな私で大丈夫かしら……。

 神聖力だけが取り柄で、背も低いし十九歳にしては女性的丸みも足りない。その上、男性のこともよくわかっていない。これまで誰かを好きになるどころか、異性の友人すらいたこともないのだ。

 物心ついたときには孤児院にいた私は、聖女の力を発現させるまでは日々を生きぬくことに必死だった。
 聖女となってからは、自分をすくい上げてくれた教皇様の期待に応えること――帝国の人々のために身を尽くすことこそが、自分の存在意義なのだと思ってきた。
 だからこの結婚も『帝国のため』だと言われれば、ふたつ返事で了承した。

 だけど陛下は違う。
 あんなに魅力的男性なのだ。私と結婚するまで婚約者はいなかったそうだけれど、ひそかに想いあう相手がいたとしてもおかしくない。神託さえなければ、陛下は想う相手と結ばれていたかもしれない。

 ズキンと胸が痛んだ。
 今の今まで自分のことばかり考えて、陛下の事情にまで考えが及ばなかった自分が情けない。私が決めたことではないとはいえ、申し訳なさに胸が苦しくなる。

 けれど神託を変えることも逆らうこともできない。

〝女神のいとし子〟であることだけが私の誇りで、存在意義だもの……。

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