黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 信じられない……どうしてこんなことに……。

 きょろきょろと左右を見回す。窓の外は真っ暗になっているが、部屋に誰もいないところからして、さほど時間は経っていないはずだ。いったい何がと思いながら後ろを振り返った瞬間、声にならない悲鳴を上げて尻もちをついた。

 赤く長い髪が絨毯の上に広がっている。倒れている女性の正体が頭の中で結びつくまでに時間がかかる。

「う、そ……わ、わた……」

 震えるひざで這うようにして近づく。倒れている自分の体を、光の粒子が包むようにして覆っている。

「これは……」

 癒しの力を使うときに現れるものだ。

 治療のとき、体の中にある神聖力を手のひらに集めて治したい場所に当てる。これはその神聖力の光に違いない。

 私の体を癒しているの……?

 神聖力で全身を包まれていてなお、体は目を覚まさしそうにない。

「もしかして死ん……っ」

 ひゅっと喉が音を立てる。

 いいえ、ちがうわ。聖女の癒しは命あるものにしか効かないもの。

 その人に宿る生命力に働きかけて、回復力を増幅させる。もし命が尽きているとしたら、こんなふうに光り続けたりはしないはず。だから〝私〟はまだ死んでいない。

 そう自分に言い聞かせるものの、絨毯の上に横たわる顔は、今にも息絶えてしまいそうなほど青白い。
 しかもそんな自分とは別に〝自分〟が存在する。しかもなぜか小さくなって……。
 もしかして死んでしまう前に魂が体と分離したのだろうか。そんな話、一度も聞いたことがない。
 
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