黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 思ったよりも難しい……。

 フォークとナイフがやたら重くて大きい。しかも両手を同時に使うのに苦労する。これまで難なくできていたことがうまくいかない。
 何度かカチャンと音を立ててしまい、仕方なくナイフとフォークの両刀遣いを諦めて、フォークを右手に持ち替えた。
 けれどなかなかオムレツがフォークに乗らない。テーブルの位置が高すぎるせいだ。

 いいえ、違うわ。テーブルが高いんじゃなくて、今の私が小さすぎるのよ……。

 椅子も今の自分には低すぎる。

 だからといって、椅子の上に立つなんて行儀の悪いことはできない。たとえ幼児の姿といえど、『すべての聖女の手本となるべき淑女たれ』と教育されてきたことが、すっかり身についているようだ。

 お腹はペコペコだというのに、おいしそうな料理を前にして一口も食べられないなんて、悔しいのも情けないのも通りこして悲しくなってきた。
 今度こそ!と思いフォークを持つ手に力を入れたら、お皿とカチャンと大きな音が立った。

 ひえっ……やっちゃった!

「なんだ、うまく食べられないのか?」

 向かいから声をかけられたが、涙目になった顔を上げられない。

「ほら」

 差し出されたフォークの上にはオムレツが乗っている。

「食べないのか?」

 じっと観察するように私を見てくる陛下と、フォークを目で二往復する。

「いらないのか? なら俺が――」
「いりましっ!」

 勢いよくパクッと食いついた。ふわふわの食感はすぐにとろっと蕩けて、濃厚な卵の味が口いっぱいに広がる。

「ん~~っ!」

 あまりのおいしさに言葉を忘れて幸福感に浸る。

「うまいか?」

 隣から聞こえた声にハッと我に返った。

 わ……私、今何を……。

 皇帝のフォークに食いつくなんて、いくら子どもでもありえない。みるみる頭から血の気が引いていく。

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