黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 私に触れる陛下の手つきが、まるで繊細なガラス細工に対するそれのようで、はたで見ていてもとても大事にされていることが伝わってくる。

 なんだか少しうらやましいかも……。

 いやだわ、私ったら。あれは私じゃないの。陛下は皇后である私を大事にしてくださっているだけなのよ? 自分相手と張り合うなんてどうかしているわ。

 そもそも『私』がふたりいるからおかしなことになる。外から自分を見るのも変な感じだし、『私、私』と考えているとなんだか頭がおかしくなりそうだ。

 幼児化した今の私は『ロゼ』なのだから、眠っている自分は『オディリア』でいいだろう。『本体』より名前のほうがしっくりくる。

 あおむけで寝かされた自分の姿を見ながら脳内会議が終了したところで、なぜか陛下がおけとタオルをどこからか持ってやってきた。

 お掃除? まさか陛下自ら?

 そんなことを考えていたら、陛下はおもむろに眠っているほうの私本体に近づいた。

「さあ、オディリア、きれいにしてやるぞ」
「え!」

 おもむろに濡れタオルでオディリアの顔をぬぐい始めた陛下に、思わず声が出た。

 驚いた。まさか陛下自らそんなことをするなんて。
 額、こめかみ、鼻筋、頬と、私の顔を丁寧に拭いていく様子に、つい呆然と見入ってしまう。

「なぜですか」

 陛下がこちらを振り向いた。

「何がだ」
「そのようなことは、メイドにやらせればよいのではないでしょうか」
「万が一ということがある」

「万が一?」と首をひねった私に、陛下は低い声をいっそうひそめた。

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