黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 陛下はきちんと国民のことを考えてくれている。すばらしい皇帝だと感心する。けれど一方で、彼の不在を心もとなく感じてしまう自分がいた。

 だめね……ここのところずっと一緒にいてくださったのを当たり前だと思ってはいけないわ。

「そんな顔をするな、明日には帰ってくる。警護に信頼のおける騎士を置いていくが、念のため俺が戻るまではおまえもこの部屋でおとなしくしておいてくれ」
「わかりました」
「オディリアのことを頼んだぞ、ロゼ」

 陛下は再び私の頭を軽く撫でてから、「じゃあ行ってくる」と出て行った。

 ひとり――いや、自分とふたりきりになった私は、しばしぼうっと惚けていたものの、そんな場合ではないと思い直した。
 国民のために尽くそうとしている皇帝陛下を、そばで支えるのが皇后である自分の役目のはずだ。そのためにも、今は一刻も早く本来の自分に戻ることを考えなければならない。

 そうだわ、これは千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスよ。
 陛下がいないうちに、執務室の魔導鏡を借りよう。それで教皇様に連絡を取る。
 昼間は誰が訪れてくるかわからない。決行は夜になってからだ。
 
 じっと待つこと十時間。
 外扉の前に立つ護衛以外は誰もいなくなったのを確認し、私は陛下の執務室に忍び込んだ。

 ちょっとだけ……すぐにお返ししますから……。

 心の中で弁解をしながら持ち出した魔導鏡を、寝室に運び込む。
 寝室には誰も入ってこないので、教皇様とじっくり話ができるだろう。

 ふたつのベッドの間にあるサイドテーブルに、皇后が映る向きに鏡を置いた。百聞は一見にしかず。現状を伝えるのにそのほうが早い。
 魔導鏡は以前使ったことがあるため使い方はわかっている。鏡に手をかざして、つなぎたい相手の名前を唱える。

「トーマス・ブルーム教皇聖下(せいか)

 魔導鏡がまばゆい光を放った次の瞬間、鏡面に丸い眼鏡をかけた銀髪の初老男性が現れた。

< 72 / 114 >

この作品をシェア

pagetop