黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
魔導鏡での通信を終えてから一時間後。王宮が寝静まったのを見計らい、私は部屋を抜け出した。
入り口の扉の前には警護の騎士が立っているので、バルコニーから出る。木の枝に飛び移り、幹を伝って地面まで下りた。
子どものころはよくお転婆を叱られていたけれど、まさかこんなところで役に立つなんて。ふふふと忍び笑いが漏れそうになり、慌てて口をつぐんだ。
物音を立てないよう細心の注意を払いながら、目的の場所を目指し、再びバラ園の入り口に立った。
「きれい……」
青空の下で見たときは華やかな優美さをたたえていたバラは、月明かりの下でどこか妖艶で神秘的なうつくしさを放っている。
バラ園の上にぽっかりと浮かんだ大きな満月に、なぜか陛下の顔を思い出した。
『月光露を集めて本体に飲ませる』
それが教皇様の教えてくれた方法だった。
月光には女神の力が宿っている。月の光を浴びた夜露『月光露』を飲めば、一時的だが神聖力を高めることができるそうだ。
折りしも今夜は満月。女神の力が一番高まるとされる夜である。
女神様は私を見放してはいらっしゃらないみたいだわ。
手に持った小瓶を胸の前でギュッと握りしめ、バラ園に足を踏み入れた。