黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 泣いている場合じゃないのよ。早くしないと朝になってしまうわ。

 自分を叱咤激励してみるけれど、なかなか立ち上がる気力が出ない。グスッと鼻をすすったとき。

「あなた、迷子?」

 突然かけられた声に振り返り、息をのんだ。
 透きとおるような水色の瞳に、目尻に向かって上がる二重まぶた。長いブロンドヘアは月光にも負けないほど輝いている。

 ブルックリー侯爵令嬢! 
 どうして彼女がこんなところにいるの?

 昨日会ったときよりもずいぶん簡素なドレスに飾り気のない髪形だ。公式訪問ではないことは見てとれた。そもそも、皇帝も皇后も不在の今、宮廷晩さん会などの公式行事があるはずがない。

 侯爵令嬢がこんな夜更けにいったい何を……。

 混乱したまま呆然としていると、彼女はおもむろに私の前にしゃがんだ。

「あらあら、転んでしまったの?」

 彼女は両手で私の手を取り立たせた後、その手で私のドレスについた土を払ってくれる。

「まあ! 怪我をしているじゃない」

 私の手の擦り傷に気づいた彼女は、地面に置いたかごからハンカチを取り出すと、私の手についた泥をきれいに拭ってからそれを巻いてくれた。

「あ……りがとうございます」

 こんなふうに優しくされると思っていなかったので、なんだか戸惑ってしまう。

< 79 / 114 >

この作品をシェア

pagetop