黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
「いや! 放して!」
「おまえを先に〝あれ〟の餌にしてやるよ」

 私を引きずるようにして男がドアに向かおうとしたとき、後ろからガシャーンと大きな音が鳴り響いた。振り返ると、割れた窓ガラスから誰かが入ってくる。顔が見えた瞬間、息をのんだ。
 漆黒の前髪からのぞく金色の瞳は、これまで見たこともないほど激しい怒気をはらんでいる。

 陛下、と私が口を動かすより早く、彼は目にも留まらぬ速さで、オディリアの横にいたやせ型の男を蹴り飛ばした。吹き飛んだ男が壁にぶち当たる。そのままずるずるとその場に崩れ落ちた。気を失ったようだ。

 私の腕をつかんでいる男は「チッ」と舌打ちをすると私を突きはなし、ドアに向かって走り出した。

「遅い!」

 陛下が剣を投げる。男の脚に命中し、男は「ぐああっ」とうめき声を上げて倒れた。陛下は容赦なく男の背を踏みつけながら、剣を引き抜いた。もう一度悲鳴を上げた男は傷を押さえてうめきながら悶絶している。

「このままおまえの背中にこの剣を振り下ろしたいところだが、皇后と幼女拉致の罪は重い。公の場できちんと償ってもらうぞ」

 言い終えた陛下がこちらを振り返る。さっきよりは怒りが鎮まっている気もするけれど、それでもまだ目つきが鋭い。
 怒られてしまうだろうか。私が部屋から抜け出したりしなければ、皇后がさらわれることもなかったのだ。

 剣を手に持ったまま陛下が近づいてきた。

「へーか……」

 顔を見ただけでほっと力が抜ける。縛られたままだった手が、ふっと軽くなった。陛下がロープを切ってくれたのだ。

「怖かったろう。よくがんばったな、ロゼ」

 ポンっと頭に手を乗せられ、髪をクシャクシャッと撫でられた。

「う……っ」

 目頭が熱くなって涙がぽろぽろとこぼれる。そんな私の背中を、陛下はトントンと優しく叩いてくれた。

「無事の再会の喜び合いたいのは山々だが、それは後回しだ。ひとまずここを出るぞ。俺はオディリアを抱える。おまえは自分で歩けるか」
「はい」

 陛下は部屋の奥へ向かいながら身につけているマントを外し、オディリアの体に掛ける。それを見た私は「あっ」と声を漏らした。
 男に開かれた襟がそのままだった。下着が見えていたのかもしれない。恥ずかしいやら申し訳ないやらで、顔は熱いのに背筋が凍りつきそうで、変な汗が噴き出してくる。

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