黒皇帝は幼女化した愛しの聖女に気づかない~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダ漏れです~
 自分よりも高貴な血筋の女性に世話をしてもらうことに引け目を感じながらも、皇后としてきちんと振舞わねばと自分に言い聞かせる。黙ってじっとしているうち、エルマは慣れた手つきであっという間に私の髪を結っていった。

「できました」
「わぁ!」

 後ろ髪は下ろしたままだけれど、サイドを緩く編み込んでいるので顔周りがすっきりと見える。横髪も邪魔にならない。
 私の意図を汲んでくれたのか、髪飾りも緑色のリボンだけ。控えめながらほどよいアクセントになっていて、着ているドレスの色ともぴったりだ。

「とても素敵よ。ありがとう、エルマ」
「恐れ入ります」

 身支度が済んだので、朝食ルームへ向かうことにする。自室を出て、赤いじゅうたんの敷かれた広い廊下を歩いていく。

「陛下は朝食にいらっしゃるかしら……」
「どうでしょうか。陛下はお忙しくていらっしゃいますし」
「そうよね……」

 エルマの言う通り、陛下は多忙を極めている。戦争終結と急な即位が重なったせいで色々とすべきことが山のようにあるのだろう。
 きっと今日もたくさんの使用人に囲まれながらひとりで食事を取るのだと思うと、胃の辺りが一気に重くなるのを感じた。

 どれほど豪華な料理だろうと、ひとりきりで食べるのは味気ない。かといって残すのももったいないのでどうにかお腹に入るだけ必死に詰め込むが、それもだんだん苦痛になってきた。

 結婚前に聖女として市井で活動していたときは、孤児院や貧民街にも出向いた。長く続いた戦争で家族を亡くしたり仕事を失ったりして、満足な食事をとることすらできない人達が大勢いた。私にできるのはケガや病気の治療だけで、温かい家や仕事を提供することはできない。

 何度も歯がゆい思いをし、皇后になったら帝国のために祈りをささげるだけでなく、貧困にあえぐ人たちの助けになれるようにしたい。その一歩が皇帝との結婚であり初夜のはずだった。
 それなのに、のっけから陛下を怒らせてしまうなんて……。

 できるだけ早く謝って、今度こそ名実ともに結ばれなければと思うのに、肝心な相手とは会話をすることもままならない。
あれこれと悩んで一歩踏み出せずにいるうち、とうとう三ヶ月も経ってしまった。
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