最期の晩餐
 無理だ。ウチまで持たない。というか、お医者さんに診てもらわないと治る気がしない。

「……運転手さん、すみません。行き先変更してください。ここから一番近い内科のクリニックに行ってください」

 座っていることが儘ならなくなり、シートに横たわる。

「お客さん‼ 大丈夫⁉ すぐそこに内科があるけど、救急病院じゃなくていいの⁉」

 バックミラーで私の様子を確認し、慌てる運転手さん。

「すぐそこの内科に行ってください‼ 早く‼」

 安全第一のドライバーさんに『急げ‼』などと言ってはいけないと分かってはいるが、私は今、一刻の猶予もない緊急事態。今にもケツの穴が爆発しそうなのである。

「お客さん、着いたよ‼ 中までお連れしますよ」

 一分もしないうちに内科クリニックに到着。

「大丈夫です。ひとりで行けます。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

 全く大丈夫ではないが、私の腹の痛みは陣痛ではない。可愛い赤ちゃんが生まれてくるわけではなく、出てくるとしたら最早固形ではない水っぽくて茶色い液体が、別の穴から勢いよく噴射されるだけだ。そんな私を『中まで連れてってください』とは、さすがに言いづらい。
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