最期の晩餐
「気にしないでください」

 優しく微笑む受付の子が天使に見えた。そんな天使が連れて行ってくれる場所は、天国でも楽園でもなく、トイレなのだが。まぁ、私が「トイレに行きたい」と言ったわけだから、当然なのだが。天使に会えても依然お腹は痛いままだし。

 トイレに案内され、個室のドアを閉めると、

「何かありましたら、右側の壁にある呼び出しボタンを押してくださいね」

 ドアの向こうから天使が声を掛けた。

「はい。お手数をお掛けしました」

 天使に返事をして、便器に跨り蹲る。

「……天使かぁ」

 フランダースの犬みたいに、楠木さんにも天使のお迎えが来たのだろうか。楠木さんはもう、神様に会えただろうか。お母さんとも再会出来ただろうか。

「……ふぇ……」

 ひとりになると、やっぱり泣いてしまう。

 こんなにも悲しいのに、尋常じゃなくお腹も痛い。私にはもう、泣かない理由がない。

 お腹に手を当てながら、さめざめと泣いていると、

「……くっ」

 下っ腹に今日一番の激痛が走った。尋常じゃなく痛い。プリッという乾いたオナラではない、生々しい湿った音の放屁をすると、お尻の穴からなけなしの水分が出た。
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