冴えなかった元彼が、王子様になって帰ってきた。
中にいた男性社員に名前を呼ばれた瞬間だった。
悠里の心臓が、ドキッと大きな音を立てて飛び跳ねる。
「……っ」
その胸の高鳴りは、ランチのときに感じたそれとまったく同じものだった。
少し前に蓋をしたばかりの〝あの記憶〟が鮮明に蘇っていく。
「あ、えっと、ごめんね!?その、いきなり名前で呼んじゃって!」
「い、いえ……っ!」
「奥畑悠里さん、で合ってますか?えっと、俺のこと覚えてるかな?その、君の元彼の……」
あのときから全然変わっていない、悠里のことを呼ぶ彼の声。細身の長身で、初めて出会ったときからやけにスタイルがいい人だなと思っていたけれど、スーツの効果でそれが際立って悠里の目に映った。
当時は目にかかるくらい前髪を伸ばしていたから、顔を覗き込まないと表情がうまく読み取れない彼だったけれど、今はふんわりとした黒髪を程よくセットしていて、真紀子達が〝王子様〟と呼ぶ意味がすぐに理解できてしまった。
「──……うん、覚えてるよ。丹波理人くん、だよね?」
悠里は平静を装って冷静に言葉を紡ぎながらも、心の中では大混乱を引き起こしていた。
「(う、嘘でしょ!?やっぱりあの〝王子様〟って……元彼の理人くんのことだったの!?)」
信じられない、あの彼が社内の花形部署に所属しているエリート社員の王子様!?
何より高校時代の元彼と同じ会社に転職しちゃったってこと、私!?
パニック寸前の悠里は、どうにかその場を誤魔化そうと必死の引き攣り笑いで耐え抜いていく。
けれど動揺の色を隠しきれていない様子の理人は、手に持っていた大量の資料をバサリと落とた。そして真っ赤に染まった顔を両手で隠しながら、その場にしゃがみ込む始末。
「あ、あの、理人くん?大丈夫?」
「……ごめん、ちょっと大丈夫じゃないかも」
「えぇ!?」
「悠里ちゃんにとってみれば、元彼と会社で会うなんて気まずいよね」
「そ、そんなこと……」
「でもごめんね?俺、それでも君に会えたことが嬉しくて」
「え?」
「ちょっと今……パニックになってる。どうしよ、いろいろ追いつけない。倒れそう」
「えぇ!?あ、あの……どうしよう」