タイプではありませんが


 今楓が抱えていることはプライベートのことだ。だから自分で解決するしかない。
 ちょっとだけ、星野には体を重ねたついでに愚痴ってしまったけど。
 でも結局自分で道を決めないといけないから。

『アンタは先に何でも決めて親に言うときには決定事項でいうんだから』
 部活に入るたびに、進路を選ぶたび――もっと小さなことだったら夏休みに開催されるキャンプに行くと決めた時にも――母に言われてきた言葉を不意に思い出す。
 あ、良くない。まだ子どもだった頃の楓が心を支配する。

 相談したよ。でも、「お兄ちゃんが、桜が大変だから後にして」って言ってたじゃん。「自分で決めてから言ってきて」って言ったじゃん。だけど決めたら文句を言うの。
 三者面談で先生に言ってたよね、「この子は手がかからないから本人に任せています」って。
 話しかけてたよ、部活の話も進路の話も。
 だから、自分で決めないと。だから頑張らないと。

 でも頑張るって、何?
 頑張った結果、病気になって。
 頑張りたいのに体がついていかないのに。
 同期は、星野はどんどん前に走っているのに。
かといって、桜や琴美のように結婚して子どもを産むのも、数値が安定しないと望めないのに。
 このまま病気が良くなる保証もないのに。ずっと薬を飲み続けて一生辞められないかもしれないのに。

 今まで考えないようにしていた不安が一気に襲って来て、押しつぶされそうになる。

 手を伸ばしてくれる人はたくさんいるのに。
「助けて」
 その一言が誰にも、どうしても言えない。

「あぁ〜、もう……最悪だ」
 負のループに捉われる。
 病気になったときも営業から外れたときもなけなしの気力を振り絞っていたのに。
 もう、絞っても何も出ない。

 そのまま楓はベッドに転がった。
 強制的に思考を停止するためにを携帯に入れていた本の朗読アプリで、数学の教科書の読み上げているものを選択し、四倍速で流す。
 いつもは絶対選ばないそれは、早口で何を言っているのか聞き取れない。
 それでも内容を無理矢理耳で追いかけるのは、余計なことを考えなくていい。
 楓は、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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