タイプではありませんが
うわー、やっちゃった。「たらし」は星野にとって禁句だ。
既に辞めた人間だが、星野の成績を妬んでいた彼は「女たらし」「顔だけ男」と悪口を言いふらしていたのだ。
星野の取引先の担当に女性が多いのはたまたまなのに。
ちなみに楓も営業の時はその人に「女を武器に取った数字」と面と向かって言われかけたが、「お前に女を感じるわけないか」と笑われた。
普段から言われなれていた、もっと言うなら学生の頃からずっと言われ続けてきた言葉だったから、楓は気にも留めていなかったが。
彼は他の人にも似たようなことを言い回っていたのだ。
パワハラが問題になる昨今だ。日頃の言動が問題視されたその先輩は左遷、退職となったのだ。
だから星野にとって「たらし」というのは言われて嬉しい言葉ではないはず。
楓は慌てて謝罪する。
「ごめん」
「詫びはいらんて。さっき一瞬止まったのはマイナスな意味じゃなくて。あれを思い出したからで」
「はぁ……?」
禁句なはずの言葉なのに、マイナスでない、とは? 楓の頭は疑問符に埋め尽くされる。
「山下なら、俺のこと「たらし」っていいんよ。ってかむしろ言うて」
でた、西の訛り。ということは、星野は嘘をついてない。彼は本音で話すときに、お国の言葉が出るから。
ホッとした楓はストレートに疑問をぶつけることができた。
「なんでよ?」
「センパイ……って呼びたくもないけど、アイツは悪い意味で俺のことを「たらし」って言ってたけど、今山下はいい意味で使ってくれただろう」
「うん。でもトラウマじゃあ……」
「まぁ言われると当時のことを思い出すけどさ。
それより、アイツに「女たらし」って言われたとき、山下、自分が言った言葉覚えていない?」
楓は記憶を遡る。頭に血が登っていたからか、何と言ったのかはとっさに思い出せなかった。
首を振る楓に星野は大切な宝物のように言葉を紡いだ。