タイプではありませんが

「げっ」
 部屋番号を聞かれた時から予想はしていたが、案の定星野が画面に映っていた。そのままシカトしておけばよかったのに、いつもの癖で通話ボタンを押してしまう。
『開けて』
 繋がった途端食い気味に話す星野。こんな強引な言い方をする星野は珍しい。
 言葉に流されそうになるが、楓は自分の格好を見て一瞬冷静になった。
「えっと……」
 今の楓はすっぴんメガネに、部屋着のキャラクターのトレーナーに下はジャージだ。
 おまけにさっきまで楓がウダウダしていたコタツ机の上には、朝ごはんの食べかけのパンとコーヒーが置いてある。
 人前に出れるような格好ではない。
『早く開けて。開けるまでここから退かんから』
 集合住宅なのにそんなの困るに決まってる。珍しく強い口調のモニター越しの星野は、本気だ。
「……わかった」
 楓はしぶしぶ玄関に向かったのだ。



「よかった、出てくれて」
 ほっとしたような顔をした星野は、いつもの冷静さを取り戻していた。
「全然連絡取れんから心配しとった」
 あ、お国訛り。ということはこれは星野の本音だ。
 さっきまで変なことを考えていたからか、まともに星野の顔を見れない。つい突き放した言い方をしてしまう。
「商談は?」
「問題なし。作ってくれた資料が役立った。サンキューな」
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