嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
 遥臣の父は、厳格で無駄話をしない人だった。
 真面目だが頑固な面があり、遥臣の母である妻とはそりが合わなくなり離婚している。人当たりがよく敵を作らない遥臣とはタイプが違う。

 瀬戸グループとしてなんのメリットも無い美琴との結婚をあっさり承諾したのは意外だった。

「あの人、俺がグループを継ぎさえすれば、あとはどうでもいいと思ってるから」

 遥臣はなんでもないように続ける。

「婚姻届も出してきたから。晴れて俺たちは夫婦になった」

 その言葉に美琴は目を見開く。

「もう出したんですか⁉」

 記入押印をして渡しておいたが、まさかそんなに早く提出するとは思っていなかったのだ。

 驚く美琴の肩に遥臣の手がそっと乗る。

「ということで、これからよろしく。奥さん」

 身を屈める気配と共に美琴の頬に柔らかいものが優しく押し当てられ、すぐに離れた。
 
 固まる美琴を尻目に、遥臣は機嫌よく部屋に入っていった。
< 58 / 172 >

この作品をシェア

pagetop