嫌われているはずが、まさかの溺愛で脳外科医の尽くされ妻になりまして
3.甘い新婚生活は想定外でした
 将来は瀬戸家に嫁ぎ、家に入るものだと思って育ってきた美琴は、なにかの職業に就く発想自体なかった。

 実家の力、いや、金の力でもてはやされていただけで自分自身に価値などなかったと痛感してから、美琴は自らの努力で必要とされる人間になりたいと思ってきた。

 だから最初に就職した会社では昼夜問わず懸命に働いた。辛くても自分が会社の役に立てていると思えば頑張れた。そう思わないと激務をこなせなかった。

 会社が倒産し、次に職を得た塾講師の仕事で美琴は初めてやりがいを感じた。自分には教育現場があってるのではないかとまで思った。しかし、あっけなくクビになった。
 人員整理で真っ先に自分が選ばれるということは、不要な人材だと言われているのと同じだ。ショックだった。もう、講師はできないと思うほどに。

 美琴は、遥臣の妻という仕事では必要とされる人材になる決意をしていた。
 家じゅうをピカピカに掃除し、遥臣のために栄養バランスのある食事を準備する。独り暮らしを始めてから覚えた家事ばかりだが、誰かのためにできるのが素直に嬉しかった。
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