最弱スキルで転生した俺、気づけば英雄になっていた。
【最弱スキルで転生した俺、材料集めだって命がけ】

次の日。俺とアベルは材料集めを続行すべく森に入っていった。

「あっちの方に、薬草がたくさん生えてるってギルドのお姉さんが言ってたよ!」

アベルが元気よく、ぴょんっと跳ねる。
その手には、依頼の詳細が書かれたメモ。

【材料収集:薬草・香草・魔樹の葉】

(依頼、簡単そうに見えたけど……)

俺は汗を拭いながら周囲を見渡した。
ここは町の南に広がる、ちょっとした林。
だけど、ところどころ地面がボコボコしてたり、怪しい木が生えてたりする。

(魔物、出るって話だったよな……)

俺は短剣を抜き、周囲に警戒しながら歩く。

「クレムくん〜、これ見てこれ〜!」

アベルが嬉しそうに手招きしてくる。

彼女の前には、鮮やかな緑の草がびっしり群生していた。
香草らしい。甘い匂いがほんのり漂っている。

「すごい、見つけたんだな!」

「えへへ、たまたまね!」

にこにこ笑うアベル。
その隣で俺も膝をつき、薬草を慎重に摘み始めた。

「これで……あと魔樹の葉だけか。」

「うん。魔樹って、ちょっと奥の方に生えてるらしいよ!」

「そっか……よし、行こう!」



さらに林の奥へと進んでいくと──空気が少し、変わった。

ざわざわと、木々が揺れる。
昼なのに、少しだけ薄暗い。
どこからか、ピチョン……と水音も聞こえる。

「なんか……ちょっと怖いな……」

「だいじょーぶだって! クレムくんには、ほら、微風スキルがあるもん!」

「いや、それそんな万能スキルじゃないからな!?」

そんなやり取りをしていると──

バサッ!!

木陰から何かが飛び出してきた。

「うわっ、でたっ!!」

飛び出してきたのは、
全身が蔓に覆われた、小型のモンスターだった。

《バインドプラント》

小さくても油断できない相手だ。

「来るよ、クレムくん!」

アベルが、杖をクルクルっと回して詠唱を始める。

「《ファイアショット》!」

ズバァン!!

小さな火球がバインドプラントを直撃。
一瞬で燃え上がり、バタバタと地面に崩れ落ちた。

(……すごっ!)

アベルの火力に目を丸くしてると、今度は別の方向から複数体、バサバサと現れた。

「わわ、まだいたーっ!」

「落ち着け、アベル! 俺たちで何とかする!」

(たぶん!)

俺は勇気を振り絞って、短剣を構える。

近づいてくるバインドプラントに向かって──

「《微風》!」

ブワァァァァァ……

そよ風のような風が、バインドプラントの動きを一瞬だけ鈍らせる。

「今だっ!」

アベルがすかさず火球を放ち、レオンの教えを思い出した俺も短剣で斬りかかった。

──ザシュッ!!

やった、手ごたえあり!

「やったねクレムくん!!」

「お、おう!!」

何とか数体を倒し、辺りが静かになる。

俺たちは息を整えながら、地面に落ちた《魔樹の葉》を拾い集めた。

「これで、材料全部揃ったね!」

「うん……でも、けっこうギリギリだったな……」

正直、ちょっとでも油断したらやられてたかもしれない。
材料集めだって、命がけだ。

俺たちは顔を見合わせ、笑った。

「でも、楽しかったね!」

「……まあな。」

心の底から、俺も笑った。



帰り道。
アベルが、ふと俺に聞いてきた。

「ねぇ、クレムくんは、どうして冒険者になったの?」

「えっ……」

俺は、ちょっとだけ迷ったあとで、答えた。

「……俺、自分でも何ができるのか、確かめたくてさ。」

最弱スキルしかない自分。
でも、だからこそ。

何か、誰かの役に立てたらいいなって。

アベルは、きょとんとしたあと、ふわっと微笑んだ。

「クレムくん、かっこいいね!」

「へっ……!?」

「私も、一緒に頑張るからねっ!」

元気よく笑うアベルに、
俺もなんだか、胸が熱くなった。

(そっか──俺、ひとりじゃないんだ)

俺は、ぎゅっと短剣を握り直す。

そうだ。
どんなに弱くても、前に進めば、きっと──。

どこかに、俺だけの居場所がある。

(だから、俺は──)

「よし、じゃあルドばあちゃんに届けに行こっ!!」

「おう!」


俺とアベルは、ギルドから教わった小道を通って、町外れにある小さな家へ向かった。

「ここだ、クレム!」

トントン、と控えめにドアを叩く。

「はーい、どなたかねぇ?」

中からルド婆さんがひょっこり出てきた。

「おばあさんから依頼を受けたクレムと一緒に来たアベルです! お届けものを持ってきました!」

ルドおばあちゃんは、素材が入った袋を受け取ると、ぐいっと覗き込み、鼻をひくひく動かした。

「ふぅーむ、薬草もよし、香草もよし、魔樹の葉っぱも……おおっと、これは上物じゃないかい?」

急にテンションが上がった。

「ふっふっふ……さすがはクレムちゃんにアベルちゃん、見込み通りだねぇ〜!」

(いや、初対面のとき、紙切れ無言で突きつけてきたの、あなたじゃん……)

「おばあちゃん、それで報酬は……?」

アベルが首をかしげると、ルドおばあちゃんは「おっとっと」と手を叩いた。

「もちろんさぁ? ほら、持っていきな!」

そう言って差し出してきたのは──

あったかい布にくるまれた、焼きたてのクッキー。

「これ、今日焼いたばっかりの、ルド特製“パリふわクッキー”さぁ」

「おぉ〜!おいしそ〜!」

アベルが目を輝かせてクッキーを受け取る。

「ふふ……ひと口食べたら、もう戻れないさ。おばあちゃんのクッキーは魔性の味って、昔から言われててねぇ」

(それ言ってるの絶対この人だけだろ……)

でも──ひと口かじった瞬間。

「……う、うまっ……!!?」

(サクッ……ふわっ……じゅわ……な、なんだこの三段活用は!?)

「へっへっへ……惚れたかい?」

ルドおばあちゃんが、ニヤリと笑った。

俺は思わず、素直に頭を下げた。

「……ありがとうございます。マジで美味しいです」

「もちろんさぁ?」

その“クセのある”口調が、なぜかちょっと、癖になりそうだった。

「あ、じゃあ、失礼します。」

「あぁ。また来るんだぞ。」

俺はそう言われいっそりと心のなかでこう思った。

(もう、こんな苦労して来たくないな、)

アベルと俺は小屋を後にした。

ギルドの入り口をくぐると、夕方のざわめきが静かに広がっていた。

冒険者たちが一日を終えて報告を済ませたり、酒場でひと息ついたりしている。
アベルと俺も、受付に軽く報告を済ませて、ギルドのカフェスペースに腰を下ろした。

「クレムってさ、あんまり冒険者っぽくないよね!」

いきなり言われて、俺はむせそうになった。

「……そう思ってたなら、もうちょっと優しくして?」

「えー?だって、なんかこう……頼りないというか~、犬っぽいというか~、ぽや~っとしてるというか~」

「言いたい放題か!」

俺が思わず声をあげると、アベルはけらけら笑って、クッキーの最後のかけらを口に放り込んだ。

「でもさ、今日のクレム、ちょっとカッコよかったかも!」

「えっ」

「材料取りに行って、森で迷わなかったし!」

「基準ひっく……!」

「あと、クッキーめっちゃ褒めてたじゃん? ああいう時、ちゃんと素直に言えるの、いいと思う!」

「……ほめられてるのか、それ」

「うん! クレムって、なんか“がんばってるのがわかる”って感じでさ。応援したくなるよね!」

アベルの笑顔はまぶしすぎて、なんだか直視できなくて、俺は残った水を一気に飲み干した。

「……俺、やっぱまだまだだな。スキルは微風、武器は使いこなせない短剣。今日だって、ほとんどアベルに助けられてたし」

「でも、それでも一緒に前に進んでるじゃん!」

アベルは机の上で手をパチンと鳴らした。

「それって、すっごいことだと思うよ? 少しずつ、できることを増やしていけばいいんだし!」

俺は黙ってうなずいた。
なんか、そう言ってもらえると、ちょっとだけ心が軽くなる気がした。

ギルドを出ると、空はすっかり群青色に染まっていた。
宿に向かう途中、アベルは鼻歌を歌いながら軽やかに歩き、俺はその少し後ろをのんびりついていった。

ふと見上げた空に、星が一つ、光っていた。

(……また、明日も頑張るか)

そんなことを思いながら、俺は静かに宿の扉を開いた。


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