アラ還の、恋は野を越え山越え谷越えて
紗依を送って、マンションにやって来た。
「おじゃまします」って言ったら、「ただいまでしょ」と、訂正されてしまった。

ほんとにここで暮らすんだ。
まだ実感はないけれど、いつも泊まってるのとは違う何かを感じた。

「退院したばかりだから、動くのは少しづつね」
いや、仕事にはまだ行かないけど洗濯物がいっぱいだから洗濯くらい…、思ってたけどさせてもらえない。

「風呂が沸いたから入っておいで、あまり長湯は止めておくようにな」
確かにずっとシャワーばかりだったから湯船は嬉しい。
でもね、何度も大丈夫かと、覗きに…、いや心配して見に来てくれるのはどうしたものか。

上がれば夕飯の準備が出来ていた。
焼き魚や小松菜の煮浸し、病院食を思い出す。
匠さんがこんなの作れるの?
もともと器用なのは知ってるけど。
「病院の食堂で習ってきた。明日からも任せて」
いやいや、たいした怪我もしてないのに、動けるし申し訳なさすぎる。
匠さん、どうしたの?

いつものようにドライヤーを持ってもやって来た。
当たり前のように髪を乾かしてくれる。
「早く食べて、今日は早く寝ること」
匠さん、やっぱり変だ。
言葉は少ないけど、すごく気を遣ってくれてる。
とりあえず、今日は甘えて明日、匠さんが仕事に行ったら少しずつ片付けよう。

そう思った。

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