この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「明日香、そろそろ帰らないと電車なくなるぞ」
「うん……」

 返事とは裏腹に、明日香はその場にとどまる。

「明日香」

 呼びかけで帰宅を促されても、どうしても動けない。まだ慶介と一緒にいたくて、恐る恐る問いかける。

「……まだいたらダメ?」
「帰れなくなるだろ」
「……今日は慶介と離れたくない」

 慶介の気持ちに触れた今日はずっとそばにいたい。慶介の存在を近くで感じていたい。

 しかし、どれだけ懇願しても、慶介は困った表情のまま。

「いや、離れたくないって言っても……」

 ひどく慶介を困らせているとわかっていても、明日香の口は止まらない。

「ここに泊めてほしい」
「っ……それはダメだろ」
「どうして? 恋人なのに泊まっちゃダメなの?」

 いつもは慶介が口にするその関係を、今日は明日香が口にする。卑怯なことをしているとは思うが、今はその関係に縋るしかない。

 これでもダメなら諦めて帰ろう。そう思いながら慶介を見つめれば、彼の方から小さなため息が聞こえてきた。

「明日香、出かける準備して」

 やはりダメかと肩を落とす。だが、これ以上無理を言って、嫌われたくはない。渋々帰る準備を始めようとしたら、慶介はまだ少し困った顔をしながらも、優しい笑みを浮かべて囁いてきた。

「そんな顔しなくていい。泊まるならいろいろと必要なものがあるだろ」
「え? うん?」
「コンビニ行くぞ」

 一瞬、なぜコンビニなのかと考えるも、すぐにその答えにいきつく。慶介は明日香を帰そうとしているのではない。泊まるための準備として、コンビニに連れて行ってくれようとしているのだと。

 明日香は元気よく「うん!」と頷いた。
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