この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「えっと、経営面だけ引き継ぎますってこと?」
「違う、違う。お父さんに弟子入りするって言ってるのよ」
「ええ? 本当に?」

 弟子入りするということは、味噌づくりそのものを引き継ぎたいということだろう。随分と酔狂な人がいたものだ。

「本当よ。まったく、変わってるわよね。飲食店経営でちゃんと成功されてるのに、いきなり別の世界に飛び込もうとするなんて。まあ、若い方だから、そういう大胆なこともできるのかしらね」

 気になるワードが出てきて、思わず反応する。

「若いって、いくつなの?」

 オーナーというからそれなりの年齢の人を想像していた。若いとはどの程度なのだろうか。

「正確な年齢はわからないけど、明日香とそんなに変わらないと思うわよ」
「えっ、若っ」

 両親よりは若いにしても、四十代くらいかと思っていた。

 明日香と同年代で、飲食店経営を成功させ、急に味噌づくりにシフトチェンジするとは只者ではない。

「若い人が如月味噌がなくなることを惜しんでくれるのは嬉しいものよね。お父さんも困った顔しながらも、嬉しそうにしてるのよ」

 父が喜んでいるという言葉に胸が痛くなる。明日香がその覚悟を決めていたなら、父を喜ばせたのは自分だったかもしれないのにと。

 ぐずぐずしている間に、如月味噌がほかの人の手に渡ってしまうのかと、明日香は寂しい気持ちになる。
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