この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「……じゃあ、その人に譲るの?」
「ううん、断ってるわよ。気持ちはありがたいけど、卸先という繋がりだけではね」
「そっか」

 ほっとしてつぶやく。だが、その安堵も一瞬のうちに終わる。

「ただ、断っても諦めずに何度もうちに来るから、そのうちお父さんが絆されてしまうかもしれないわね」
「……」

 どう言葉を返せばいいのかわからず黙り込む。

 それだけの熱意がある人がいるなら、その人に任せた方がいいようにも思うが、別の誰かのものになってしまうのは悲しい。

 かといって、今すぐに自分が継ぐという勇気も覚悟もない。

 なにも言えないでいる明日香に、母は優しく語りかける。

「明日香、焦らなくていいからゆっくり考えなさい。あなたも継ぐ意志が少しはあるみたいだったから、一応伝えておこうと思ったの。明日香を無視して、勝手には決めないから安心しなさい」

 だから、電話をくれたのかと納得する。如月味噌の現状を正しく伝えて、明日香が悔いのない決断をできるように計らってくれたのだろう。

 母の優しさが胸に染みる。

「ありがとう、お母さん。今すぐにはどうしたいのか答えられないけど、近いうちにちゃんと答え出すから」
「わかった。それじゃあ、電話出てくれてありがとうね。またね」
「うん。またね」

 通話を終了すると、明日香は深いため息をこぼす。なんの答えも出せていない自分がとても情けなかった。
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