この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~


 時刻は午後二時過ぎ。明日香は本社の廊下を慶介と並んで歩いていた。

「次の企画も面白そうだね。動き出すのはまだ先になりそうだけど、今から楽しみ」
「俺も楽しみだよ。また如月と一緒にできるしな」

 恋心をくすぐられる台詞に思わずはにかむ。今の近しい距離でこのようなことを言われたら、嬉しさを抑えられない。

 だが、ここは会社だ。さすがににやけ顔を晒すわけにはいかない。

 明日香は下を向いて表情を作り直すが、その拍子に左肩に軽い衝撃が走った。驚いて顔を上げれば、スーツ姿の男性が目に入る。どうやらすれ違いざまにぶつかってしまったようだ。

「すみません」

 慌てて謝罪をするも、相手の男性と目が合った瞬間、言いようのない不快感に襲われる。

「っ……」
「如月?」

 突然立ち止まった明日香に、慶介は訝し気な顔で声をかけてくる。だが、明日香の耳にその声は届かない。たった今すれ違った男性のことで頭がいっぱいだ。

 明日香は勢いよく振り返ると、先ほどぶつかった男性の前へと立ちはだかった。

「待ってください!」
「っ!?」

 男性は驚きの表情を浮かべるも、それは一瞬のことで、すぐに苦々しい表情に変えて、その場から逃げ始めた。

 その行動で、明日香の中の疑念が確信に変わる。

 この男こそが明日香をホテルに連れ込もうとした犯人に違いないと。

 あのときとは随分と雰囲気が違うが、印象的な目は誤魔化せない。記憶の中のそれと完全に一致していた。

「待ちなさい!」

 明日香も走って追いかける。慶介も驚きながらも後から追いかけてきている。

 会社の廊下を全力で走る三人。そんなことをしていれば騒動になるのは当然で、騒ぎを聞きつけた人事部長によって三人とも会議室に押し込まれてしまった。
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