この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「行こう、如月」
「えっ、うん」

 コーヒーを買いに来たことなど忘れて、明日香とともに来た道を戻る。

「助けてくれるなんて珍しい」
「ごめん。やっぱり余計なお世話だったか」
「いや、来てくれてよかった。大分頭に血がのぼってたから助かったよ。ありがとう」
「ははっ、そっちかよ」

 相変わらず自分のことではなく、周囲のことを気にしている。そのお人好し加減に思わず笑いが漏れた。

 二人の会話はそこで一度途切れるも、明日香がおずおずと質問を口にしてくる。

「ねえ、もしかして、恋人とかいう話をしたから助けてくれたの?」

 予想もしていなかった問いに思わず足を止める。今、明日香に言われるまで、そのことはすっかり頭から抜けていた。

「いや、普通に如月が悪く言われてるのが我慢できなかっただけだ。今日のはかなりひどかったから」
「そっか」
「そもそも恋人の件は忘れてた」
「えっ、忘れてたの?」

 正確に言えば、完全に忘れていたわけではないが、あえて思い出すことはしなかった。

「如月も特に何も言ってこないし、もういいのかと思って」
「あー……そうだよね。私が提案したんだから、私から動くべきだよね。ごめん」

 どうやら明日香は慶介の様子を窺っていたらしい。いつも言いたいことがあれば自分から主張してくるのに、なぜ今回は遠慮しているのかと笑いが漏れる。

「ふっ、なんだよ、それ。俺が動くのをずっと待ってたのかよ」
「いや、うん……なんというか、穂高なにも変わらないし、あの日のことは夢なのかと思っちゃって。だから、今度もう一度話そうかと思ってた」
「へえ、じゃあ、あれは本気なのか」
「まあ、うん。その、会社では今まで通りがいいなとは思うけど、恋人の件は本当にやってみたい」

 酒の勢いで言った可能性もあると思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 友人の自分らが恋人のように振る舞ったところでなにかが変わるとは思えないが、明日香が本気ならば慶介も本気で向き合うしかない。

 明日香の苦しみは慶介にもよくわかるのだ。そこから抜け出す努力を馬鹿にはできない。とんでもない提案だとは思っているが、できるかぎりは協力してやりたいと思う。
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