この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 その後は思い出話に花を咲かせる四人。どれだけ話しても話題が尽きることはなく、あっという間に時間は過ぎていく。そうして入店から二時間が経った頃。

 将人が奈菜となにやら相談し始めたかと思ったら、とてもやわらかな笑みを浮かべて、一つのことを報告してきた。

「二人に言っておきたいことがある。実は僕たち一緒に暮らすことになったんだ。近々引っ越す予定」

 将人と奈菜は顔を見合わせ、嬉しそうに微笑み合っている。

 その様子を見ていれば、嬉しい気持ちと寂しい気持ちが同時に湧き上がった。

 二人が上手くいっていることが嬉しいのに、将人がどんどん遠くに行ってしまうと思うと切なくてたまらない。胸が痛くなる。

 明日香は切なさに耐えるように、テーブルの下でぎゅっとズボンを握りしめる。

 すると、左側の手になにか温かいものが触れ、そのまま優しく包み込まれた。

「っ」

 驚いて視線を手元に移せば、明日香の手を握る慶介の手が目に入ってくる。そのまま視線を上げて慶介と目を合わせれば、優しい笑みが返ってきた。

 その表情は自分がついていると言っているように見える。明日香は慶介の温もりに背中を押されて、どうにか口を開いた。

「……それは楽しみだね」
「そうだね。すごく楽しみだよ」

 すぐには次の言葉を紡げない明日香の代わりに、慶介が話を繋げてくれる。

「引っ越し先はどこなんだ?」
「今僕が住んでいるところの近くだよ。二人には後で住所送るね」
「おう、サンキュ」

 そんな会話をしながらも、慶介はまだ明日香の手を握っている。

 胸がドキドキとして落ち着かないが、それがなにからきているかはわからない。

 同棲話に動揺しているからなのか、あるいは、将人と奈菜に気づかれたらどうしようという焦りからなのか、それとも純粋に慶介に手を握られているからなのか。どれが答えかはわからない。

 ただドキドキのおかげで、先ほどの苦しさは消えている。意識が左手に分散されているからか、不思議と将人たちにも真っ直ぐに向き合える。
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