この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 杉崎がある方向へと体を向け、意気揚々と足を踏み出す。しかし、たった一歩踏み出したところで、聞き覚えのない声に呼び止められた。

「すみません。道をお尋ねしたいのですが」

 同年代くらいに見える背の高い男性が、申し訳なさそうにそう述べている。道に迷っているようだ。

 周囲にはほかにも人がいるが、駅へ向かう人はせかせかとしているから、声をかけづらかったのかもしれない。明日香は笑みを浮かべて、「はい」と請け合う。

「この店に行きたいんですが、スマホの充電が切れてしまって……そこの細い道に入った後の道順がわかれば、教えていただけませんか?」

 男性が見せてきたのは店名が書かれたメモ。見知った店名にそこかと頷く。その店はこの会社の人間がよく利用する居酒屋で、明日香ももちろん利用したことがある。

 ここから歩いて五分ほどの場所にあるから、道順を説明すれば地図がなくてもたどり着けるだろう。

「わかりますよ。えっとー、その細い道を突き当たりまで歩いたら、左に曲がってください。で、そこからしばらく道なりに進むと交差点が現れるので、そこを左に。そのまま真っ直ぐ歩いて行くと大通りに出るので、そうしたら右に曲がって大通り沿いに歩けば目的地に到着しますよ」

 明日香が説明すれば、男性は納得したように頷くものの、まだなにやら困った表情をしている。

「ありがとうございます。あの、申し訳ないんですが、途中まで案内してはもらえませんか? 約束の時間が迫っているんですけど、一人だと時間までに間に合う気がしないもので」

 初めて通る道だから、案内なしでは時間がかかると踏んでいるのだろう。明日香はどうすべきかと少し悩んだものの、困っている人を放ってはおけず、迷い迷い承諾する。

「あー……わかりました。では、途中まで」
「ありがとうございます!」
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