この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「そんなこと言わずに、もう少しお願いしますよ」
「ちょっ、なにするんですか! 離してください」

 どうにか踏ん張って抵抗しようとするも、男の力の方が強くて、ずるずると引きずられていく。

 このままではまずい。嫌な予感通りになってしまう。

 そう思った明日香はひどく焦りながらも、抵抗を続け、ここから脱却する方法を必死に考える。

「最初から連れ込む目的だったんですか?」

 目的を訊き出そうと投げかけたその問いに、男はしらばくれた返事を寄こす。

「なんのことですか?」
「裏路地を通るルートだったのはわざとですよね?」

 別の質問に変えても、男は素知らぬふりをして、なおも明日香を引きずり続ける。

「あなたが教えてくれた通りに歩いているだけです」
「道がわかるならもういいでしょう。離してください」

 この男が先導している時点で、道案内は不要なはずだ。だが、明日香を解放する気配はない。

 抵抗も虚しく、じりじりとその場所まで引きずられ、とうとうホテルの前まで来てしまった。男はそこから大通りへは進まず、その場で足を止める。

「どうしてホテルの前で止まるんですか? 目的地はもっと先ですよね?」

 このまま大通りに出てくれないだろうかと一縷の望みをかけながら問いかけるも、その願いが聞き届けられることはなかった。

「暴れないでくださいね」

 男は明日香の肩を抱き、そのままホテルへ足を進めようとする。

「離してっ!」
「だから、暴れんなっつってんだろうが!」

 強い口調で怒鳴られ、思わずびくりと体を震わせる。

「お前が暴れたら意味がないんだよ。大人しく一緒に入れ。そうしたらすぐに出してやる」

 含みを持たせた言い方に、明日香は疑問を抱く。なにか別の目的があるように聞こえる。

「どういうこと?」
「あんたが嫌われてる理由がよくわかるな。冷静でかわいげがない」

 明日香のことを知っているような口ぶりに不安を覚える。

 なにかとんでもないことに巻き込まれようとしているのではないだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。

 そう感じた明日香は、最大の抵抗を試みる。ここから全速力で走れば、大通りに出られる可能性は高い。

 明日香は一か八か勢いよく男のみぞおちへと肘を打ちつけた。

 しかし、スカッと空ぶる。すぐそばにあったはずの男の体は、なぜかすでに明日香から離れていた。
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