この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「おい! 彼女から離れろ!」

 待ち望んでいた声が耳に届き、明日香は勢いよく振り返る。

 そこには男を背後から取り押さえている慶介の姿があった。

「うっ……くそっ!」

 慶介が男の手をつかんで後ろに捻り上げているが、男が激しく抵抗すると、その拘束は外れてしまう。

 だが、この状況では分が悪いと思ったのだろう。男はもう明日香には構わず一目散にどこかへと走り去っていった。

 明日香も男のことはもうどうでもいいと、必死に彼の名を呼ぶ。

「慶介っ」

 慶介の方へ手を伸ばせば、彼はその手を優しくつかみ、明日香の方へと歩み寄ってくれた。

「明日香! 無事か? 怪我はしてないか?」

 慶介は不安そうな表情で問いかけてくる。ひどく心配をかけてしまったようだ。

「大丈夫。慶介が助けてくれたから」

 無事を伝えれば、慶介にぎゅっと強く抱きしめられる。

「よかった。無事でよかった。本当によかった」
「ありがとう、来てくれてっ」
「当たり前だ」

 明日香の存在を確かめるかのごとく、慶介は強く、強く明日香を抱きしめる。

 明日香も慶介がここにいることを感じていたくて、彼の体に腕を回し、抱きしめ返した。

 自分とは異なる硬い体に、その存在を強く感じる。彼の腕の中に包み込まれている感覚が心地いい。

 ホテル前で抱き合うなど、冷静に考えれば恥ずかしい行為だとわかるのに、どうしても慶介から離れられない。今はただこの温もりに縋ること以外、なにも考えられない。

 二人はそのまましばらくの間、強く抱きしめ合っていた。
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