この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
 慶介の存在に心を満たされ、次第に落ち着きを取り戻した明日香は、ゆっくりと腕の力を緩める。

「ごめんね。仕事中だったのに」
「今はそんなことどうでもいい。明日香より大事なものなんてない」

 慶介の真っ直ぐな瞳が物語っている。明日香のことが本当に大切だと。

 強く胸が疼き、明日香は泣き顔とも笑顔とも取れる複雑な表情を浮かべる。

 その表情を慶介がどう捉えたかはわからないが、彼は明日香の頬にそっと手を当て、苦しそうな顔をしてつぶやく。

「明日香になにかあったらと思うと、生きた心地がしなかった。心臓が止まるかと思った」
「慶介……」
「頑張ったな。ちゃんと俺に連絡できて偉かった。本当によく頑張った」

 その言葉で、慶介がちゃんと明日香のSOSに気づいてくれていたのだとわかる。

 男に引きずられていく中、明日香はこっそりとスマホを操作し、慶介に電話を繋いでいたのだ。そして、自分の居場所を知らせるように、男との会話にヒントを散りばめていた。慶介ならきっと気づいてくれるはずだと信じて。

 明日香はようやく助かったのだと実感し、安堵から涙をこぼす。

「うんっ……ありがとう、慶介。助けてくれて、本当にありがとう」

 頬を伝う涙を優しく拭われたかと思うと、そのまま優しく頭を彼の方へと引き寄せられる。彼の肩に顔をうずめるような形で、明日香は再び抱きしめられた。

 心臓がドクドクと速いリズムを刻む。

 ホテルに連れ込まれそうになった恐怖でそうなっているのか、慶介に抱きしめられているからそうなっているのか、明日香にはわからない。

 ただ、どれだけ鼓動が速くなったとしても、慶介との抱擁をやめたいとは少しも思わなかった。
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