この好きが本当になるまで ~腐れ縁の友人と嘘の恋を始めたら~
「明日香は本当に優しいね。いつも周りのことに気を配って、困ってる人には迷わず手を差し伸べてる」

 突然褒められたせいで、危うくコーヒーが変なところに入りそうになる。明日香はどうにか気管に入らないようコーヒーを飲み込むと、呼吸を落ち着けてから答えた。

「……そんなことないよ。自分が気になって落ち着かないだけ。私は将人の方が優しいと思うけど」

 明日香の優しさは一般的な正義に基づいて行動した結果のものにすぎないが、将人の優しさは悪にすら救いの手を差し伸べるほどの慈愛に満ちた優しさだ。

 子供の頃、将人を悪く言う連中に対して明日香は強く怒っていたが、将人はそんな彼らにすら優しく寄り添っていたのだ。悪ガキを改心させてしまうくらい心優しい少年だった。

 そして、その優しさは今も変わっていない。

 明日香はそう思っているが、将人自身は違う考えのようだ。

「僕は揉め事が嫌いなだけだよ。傷つけることが怖いだけ。明日香みたいに強くてかっこいい優しさは持っていない。だから、明日香はずっと僕の憧れの人なんだ」

 憧れとまで言われると照れくさい。素直に伝えてくれるのは将人らしいが、二人きりのときは勘弁してほしい。

「そんなに褒められると照れる……」
「でも、本当のことだから。明日香がいなかったら、僕はきっと弱くて情けない人間のままだったと思う。明日香の強さが、僕も少しだけ強くしてくれた。僕が今幸せなのは、明日香がずっと友達でいてくれたからだよ。ありがとう、明日香」

 先ほどから褒めすぎではないだろうか。嬉しいを通り越して、むず痒くなってしまう。

「いったい今日はどうしたの? そこまで言われると本当に恥ずかしいんだけど」
「今日は大事な話をする前に、どうしても明日香に感謝の気持ちを伝えたいって思ってたから」

 将人が真剣に言っているのだとわかって、明日香は恥ずかしい気持ちを堪え、素直に受け止める。いったいなんの話をしようとしているかはわからないが、今は友人として真っ直ぐな言葉をかけ合うべきだろう。

「そう。私も将人には感謝してる。友達でいられてよかったと思ってるよ。将人は誰よりも大切な友達だから」
「ありがとう。僕にとっても明日香は大事な友達だよ」

 顔を見合わせ微笑み合う。将人と二人でいて、こんなに優しい空気になるのは久しぶりかもしれない。

 やはり慶介との時間が明日香の心を少しずつ癒してくれていたのだろう。

 明日香はここにはいない慶介のことを考えて、微笑みを強くした。
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